順發電腦(Sunfar)は、台湾南部の高雄に本社を置く、パソコンや家電などを扱う小売企業です。台湾各地の店舗とオンラインショップで、パソコン、部品や周辺機器、モバイル端末、家電製品を販売し、パソコンの組み立てや修理も手がけています。1
同社は2010年から、社会貢献を事業の継続的な取り組みに位置づけてきました。会社と会長による寄付を合わせ、毎年、同社の年間純利益の少なくとも20%に相当する額を慈善活動に充てると約束しています。その主な支援先は、学習や生活の面で支えを必要とする子どもたちです。1
私は2026年6月18日と24日、同社の吳錦昌会長の講演を聴きました。一週間ほどの間に同じテーマの話を二度聴けば、二度目の新鮮さは少し薄れるかもしれない。そう思っていましたが、実際には、二度目も引き込まれました。
社会貢献についての話の奥には、何をすることに価値を見いだし、どうすればそれを続けていけるのか、という問いがありました。
社会貢献に参加できる仕組み
順發が掲げるのは、買い物を社会貢献につなげるという考え方です。小売事業を営むなかで得た利益を、あらかじめ示した寄付の約束に基づいて、支援を必要とする子どもたちへ届けます。1
吳氏が講演で紹介した取り組みの一つに、高雄で開かれるチャリティーラン「RUN FOR FUTURE」があります。企業が資金などを提供し、社員は一緒に走ることができ、一般の人も参加できます。異なる企業が、一つの催しを通じて共通の目的を支えるのです。2
私が興味をひかれたのは、そこに参加の機会があることでした。企業による寄付には意義がありますが、社員一人ひとりにとっては、自分から少し離れたところで行われていることに感じられるかもしれません。チャリティーランには、仲間と一緒に体を動かしながら関われるよさがあります。他の企業にとっても、協力の仕方が具体的に見えてきます。
集まった資金の行き先も示されています。2025年の大会では、必要経費を差し引いた残額の全額が、高雄で支援を必要とする子どもたちの養育や生活を支えるために寄付されました。3
ESGの観点から見ると、地域の子どもたちへの支援や企業間の協力は、社会(S)の側面に関わる取り組みとして捉えられます。4 私がとくに関心を持ったのは、その参加の仕組みです。善意を持ち続けるには、それを実際の行動に移せる方法も必要なのだと思います。
幸福を支える楽しさと意味
吳氏は、幸福には楽しさと意味の両方が必要だと話していました。自分の幸福をつくることは人生の目標であり、社会の幸福を増やすことは人生における貢献である、と。5
その考えを、次のように語っていました。以下は中国語の発言を日本語に訳したものです。
楽しさだけでは、やがてむなしさを感じる。意味があっても、楽しさがまったくなければ長続きしない。
私には、実感の伴う言葉でした。自分から関わりたいと思い、取り組む過程にも充実感があり、それが誰かの役にも立っていると感じられる。そうした重なりがあるとき、人は物事を続けていけるのだと思います。
企業についても、同じように考えることができます。長く何かを支えていくには、まず事業を安定して続けることが必要です。そのうえで、自分たちの資源をどう使い、社会のどのようなニーズに応え、何を繰り返し実行していくのか。そうした選択の積み重ねが、企業の個性を形づくっていきます。
その場にふさわしい選択としての「中」
講演の冒頭で、吳氏は日々の判断について問いかけていました。私たちの選択は、本当に自分で決めたものなのか。それとも、何かに動かされているのか。
情報が増えても、判断が確かになるとは限りません。感情や周囲からの圧力、人の期待に押され、理由を十分に考えないまま選んでいることもあります。
吳氏は仏教の経典に触れながら、世界をよく理解すること、心を落ち着かせること、判断を縛る執着から離れることについて語り、そこから「中」という考えへと話を進めていました。5
ここでいう「中」は、二つの意見のちょうど中間を選ぶことでも、すべての条件を同じ重さで扱うことでもありません。吳氏が講演で伝えようとしていたのは、その場の状況にふさわしい判断です。
それぞれの条件をどのくらい重く見るか。一つの要素に偏りすぎていないか。目の前のことだけでなく、長い時間のなかで何が起きるか。その都度、こうした関係を見定めていく。状況が変われば、ふさわしい答えも変わります。5
住まいのなかで考えるバランス
この「中」の話から、私は住宅の設計を思い浮かべました。
これまで日本の設計者と仕事をするなかで、繰り返し耳にしてきた言葉があります。バランスです。一度だけではありません。何度も、何度も。
Balance, balance, balance.
一つひとつは美しくても、全体のなかではうまく収まらないことがあります。形、寸法、素材、光、風通し、動線、維持管理。それぞれが互いに影響し合っています。際立たせるところもあれば、ほかの要素を引き立てるために控えるところもあります。
住まいでは、その判断が日々の暮らしに直接関わります。部屋に光はどう入るのか。風は通るのか。建物のなかを無理なく移動できるのか。利用する人の数に対して、エレベーターは十分か。手入れや修繕を続けやすいか。
写真で見たときには目立たなくても、住む人が繰り返し感じるのは、こうしたことです。
安藤忠雄が語る住宅と自然の関係も、ここで思い浮かびます。プリツカー賞の公式伝記では、壁や幾何学的な構成によって外部から区切られた空間をつくり、そこに光と風を取り入れることを通して、住宅と自然の関係を取り戻そうとする考えが紹介されています。6 建物の姿とともに、光がどう入り、風がどう動き、人がそのなかでどう暮らすかも考える必要があります。
印象的な外観や凝った素材を選ぶときにも、採光や風通し、将来の修繕との関係を見ておきたいと思います。見た目を優先するあまり、暮らしのために大切なものを損なっていないか。その問いは、設計のなかにいつも置いておきたいものです。
何を表に出し、何を調整し、住む人のために何を守るのか。住まいの意味は、こうした具体的な選択のなかにもあります。
よい住まいの美しさには、第一印象だけではわからないものがあります。光や空気の心地よさ、使いやすさ、手入れのしやすさ。その価値は、暮らしのなかで少しずつわかってきます。
私にとって「中」とは、日々の暮らしのなかで、物事が無理なく成り立つように、そのつどふさわしいあり方を考えることなのかもしれません。