高雄・都市・公共空間
高雄で、70ヘクタールのゴルフ場はなぜ公園になったのか
もともと緑だった土地に、何が新しく生まれたのか。高雄・果嶺自然公園を歩き、公共空間としての価値、自然環境、そして長期的な維持管理の意味を考える。
公園が一般に開放されると、最初に目に入ったのは、なだらかな芝生と池、そして思い思いに過ごす人びとの姿だった。
しかし、果嶺自然公園で新しく生まれたのは、緑そのものではない。
この土地には、ゴルフ場だったころから草地も樹木も池もあった。変わったのは、そこへ入れる人である。
かつて一般市民には入りにくかった約70ヘクタールの土地を、いまは誰もが歩き、子どもを連れ、草地で午後を過ごすことができる。
公園への転換によって変わったのは、風景だけではない。この土地と高雄の関係そのものだった。
本文の流れ
発行元との関係について
Tang-Yu Lifeは、台湾・高雄の棠宇建設(Tangyu Development)が発行している。同社は果嶺自然公園の周辺でプロジェクトを手がけており、この大規模公園によって事業上の利益を得る可能性がある。この関係をあらかじめ明記しておく。
本稿では、この関係を開示したうえで、公園の開園前後に調べた資料、専門家との対話、そして筆者が開園後に二度現地を歩いた経験をもとに、土地の公共性と長期的な維持管理について考える。
緑地は、開園の日に生まれたのではない
果嶺自然公園の歴史は、高雄市が2024年に旧ゴルフ場の用地を取り戻したところから始まったわけではない。
1961年、当時「大貝湖」と呼ばれていた現在の澄清湖のそばに、高雄ゴルフ場が整備された。2000年以降は民間事業者が借り受けて運営していたが、市が2024年に用地を取り戻した。そして2025年10月10日、「高雄果嶺自然公園」として一般に開放された。1
長いあいだゴルフ場だったため、土地にはすでに起伏があり、草地、樹木、池も残されていた。開園の日に、何もない場所が突然緑化されたのではない。
最初に変わったのは、利用できる人の範囲だった。
高額な利用料金がかかり、一般の市民には入りにくかった場所へ、いまは公共の公園として、誰もが入ることができる。散歩する人、走る人、子どもを連れた家族、草地に座って語り合う人が、同じ土地で思い思いに過ごしている。1
開園後、私は二度この公園を歩いた。
現時点では、園内のどこを歩いても十分な木陰が続くような、成熟した公園ではまだない。それでも、多くの人が散歩し、子どもと過ごし、草地に腰を下ろしている光景を見て、高雄には長い時間を屋外で過ごせる大きな緑地が必要だったのだと感じた。
緑地が生まれたのではない。そこを使える人が変わった。
なぜゴルフ場を公園へ変えるのか
私がこの土地に関心を持ったのは、高雄市が旧ゴルフ場の用地を取り戻すという話を聞いたときだった。
市街地がすでに形成された都市で、なぜそのすぐそばにある広大なゴルフ場を、公園へ変えるのか。同じような転換は、ほかの都市でも起きているのか。
海外の事例を調べると、背景は一つではなかった。
市街地の密度が高まり、公園や歩いて過ごせる場所が不足したため、まとまった土地を公共空間へ転換した例がある。会員数の減少、維持費、契約期間の終了などによって、ゴルフ場としての利用を見直した例もある。行政、地域団体、自然保護団体が協力し、フェアウェイを湿地や草原、森林、水辺の生息地へ少しずつ戻している場所もあった。
事例の詳細は、別稿「ゴルフ場はどのように公園へ変わるのか」(繁体字中国語)に整理している。
それぞれの都市が直面した事情は違う。それでも共通していたのは、ゴルフ場という単一用途が見直されるとき、都市はその希少な土地を誰のために、何のために残すのか、もう一度選ばなければならないということだった。
果嶺自然公園が示した第一の答えは、明快だった。
限られた人が利用していた場所を、多くの市民が日常的に使える場所へ開くことである。
70ヘクタールは、もう一度つくれない
日本でその規模を思い浮かべるなら、新宿御苑が一つの目安になる。
環境省によれば、新宿御苑は樹林、芝生、庭園、池を含めて58.3ヘクタールある。2 果嶺自然公園は、それよりもさらに広い。
市街地のすぐそばで、これほど大きな連続した土地を、あとからもう一度つくるのは難しい。細分化された土地を買い集め、建物を移転し、道路網を組み直して、70ヘクタールを一続きの土地に戻すには、莫大な費用と、多くの関係者との調整が必要になる。
果嶺自然公園には、かつての18ホールの配置をたどる約7.2キロメートルの園路がある。丘陵、林帯、池、開けた草地といった、ゴルフ場時代からの地形も残る。園内では、2,658株の植物に名札とQRコードが付けられ、既存の植生を自然学習に生かそうとしている。3
ただし、広いだけで、よい公園になるわけではない。
新しく植えた木が大きな樹冠をつくるまでには時間がかかる。人がどの道を好んで歩き、どこで長く過ごすのかも、開園前の図面だけでは決められない。管理する側にも、草地、樹木、水辺、利用者の動きを読みながら調整する経験が必要になる。
土地の広さが生むのは、完成ではなく可能性である。
緑地であることと、公共の公園であること
果嶺自然公園は、開園前から緑地だった。だから、ゴルフ場が公園になったことを、そのまま「緑が増えた」と表現するのは正確ではない。
緑地であること、誰もが利用できる公共の場所であること、生きものにとって質の高い環境であることは、それぞれ別の問題である。
第一の変化は、利用できる人が広がったことである。一般市民には入りにくかった土地を、誰もが歩き、休み、家族と過ごせる場所へ開いた。草地は同じ場所にあっても、その土地と関係を持てる人は大きく増えた。
第二に、土地にはすでに自然環境の基盤があった。園内には丘陵、林帯、池、草地があり、多様な鳥類も確認されている。旧ゴルフ場のすべてが豊かな生息地だったわけではないが、舗装された市街地とは異なる土壌と水辺、まとまった緑が残っていた。
第三の問題は、この自然環境の質を今後どう高めるかである。
開けた草地は、遠くまで見渡せ、走ったり、座ったり、催しを開いたりするのに向いている。一方、高雄の強い日差しの下で人が長く歩くためには、連続した木陰が欠かせない。林帯、低木、水辺、あまり人が入らない場所は、鳥や昆虫などの生きものがとどまる環境になる。
私は、自然に伸びた一部の藪が整理されているのを見て、少し複雑な気持ちになった。見通しがよくなれば、安全確認や管理はしやすい。だが、人の手があまり入らない林や藪にも、生息地としての価値がある。
70ヘクタールの利点は、公園全体を一つの姿にそろえなくてもよいことだ。
人が多く集まる場所には開けた草地を残し、水辺や林帯、園の周縁部には、人の立ち入りや手入れを抑える区域を設ける。公共利用と生息地の保全を、同じ公園の中で両立させる余地がある。
開園は、生態公園の完成ではない
高雄市が開園初期に公開した記事では、園内を区域ごとに管理し、人為的な干渉を抑えることで、自然環境の保全と利用の両立を図っていると説明している。生態ガイドが行われ、鳥を撮影する人に対し、鳥との距離を保つよう別の来園者が声をかける場面も紹介されている。4
これは、公園が人に自然を見せるだけの場所ではなく、人と自然の関係を学び直す場所になり得ることを示している。
同時に、利用者が増えれば、踏圧、ごみ、騒音、照明、催し、駐車といった新しい負荷も生まれる。
果嶺自然公園は夜間は閉園し、照明も設けていない。樹木が密生する区域や水域への立ち入りを制限し、キャンプ、火気、採取、動物の捕獲なども禁止している。5
利用時間を延ばし、照明や施設を増やせば、便利になることもある。しかし、自然公園では、何を加えるかと同じくらい、何を加えないかが重要になる。
公園の価値は、新たに設けた施設や設備の数だけでは測れない。残した暗さ、静けさ、手を入れすぎない場所にも現れる。
開園は一度、管理は毎日続く
市が用地を取り戻し、公園として開くまでには、大きな行政判断と準備が必要だった。
けれど、長い時間で見れば、開園は一つの出来事にすぎない。
毎年の維持費をどう確保するのか。草地をどこまで刈るのか。樹木が老いたとき、何を残し、何を更新するのか。催しやパブリックアートをどこに置き、生息地への影響をどう抑えるのか。歩行者や車の流れを、周辺住民の暮らしとどう調整するのか。
答えは、一度決めれば終わるものではない。
2026年の園の維持記録を見ると、管理者は、管理する区域や土壌の湿り具合、天候に応じて、散水量と頻度を調整し、草地の刈り込みも続けている。6 地味に見える日々の判断こそが、数年後の木陰や草地、水辺の状態をつくる。
この公園の評価を、開園直後の人出だけで決めることはできない。
五年後、十年後に木陰は増えているか。池と林帯は残っているか。人が集まる場所と、生きもののために静けさを保つ場所が、無理なく共存しているか。
開園は一つの出来事である。公園を育てるのは、日々積み重ねる公共の営みである。
植物園として育てる未来
ここからは、市の公式計画ではなく、筆者個人の提案である。
高雄の市街地のすぐそばに、丘陵、樹木、池を備えた約70ヘクタールの土地をもう一度確保することは、ほとんど不可能である。だから私は、この公園を長い時間をかけて、高雄を代表する植物園のような場所へ育てられないだろうかと考えている。
私が思い描く植物園は、公園全体を花壇で埋めたり、すべてを整然と刈り込んだりする場所ではない。
既存の林帯、池、鳥の生息地、開けた草地を残したうえで、適した区域で、次の取り組みを少しずつ重ねていく。
- 主要な園路に連続した木陰を育てる
- 台湾の在来植物を含む、体系的な植物コレクションを育てる
- 池や林帯を守り、人の立ち入りや手入れを抑える区域を設ける
- 植物名と土地の履歴を学べる解説を整える
- 学校、大学、専門家と協力し、教育と研究を続ける
- 植物を長期にわたって管理できる専門チームと安定した予算を確保する
バンクーバーのバンデューセン植物園(VanDusen Botanical Garden)、シンガポール植物園(Singapore Botanic Gardens)、シドニー王立植物園(Royal Botanic Garden Sydney)の取り組みから学べるのは、庭の形ではない。植物を集め、育て、その知識を次の世代へ伝える活動には、長期的な組織と専門性が必要だという点である。7
名称を変えるかどうかは、あとから考えればよい。
まず必要なのは、既存の自然公園を基礎にしながら、植物園に求められる長期的な視野で、この土地を育て始めることではないだろうか。
開園は一つの日付。公園を育てるのは、その先の数十年
果嶺自然公園には、ゴルフ場だったころから緑があった。
開園後に最もはっきり変わったのは、市有地の使い方である。一般市民には入りにくかった土地が、誰もが歩き、休み、思い思いの時間を過ごせる場所になった。
一方で、樹冠の成長や生息地の質、維持管理の仕組み、市民の利用のあり方は、開園と同時に整うわけではない。
この70ヘクタールを、ただ広い草地として維持するのか。木陰と多様な生息地を育てるのか。利用者を増やすだけでなく、自然を守る行動が市民のあいだに根づく公園にするのか。
その答えは、これからの管理の積み重ねのなかで見えてくる。
公園になった日に、この土地の仕事は終わったのではない。
そこから、高雄がこの土地をどう育てるかという、長い時間が始まった。
よくある質問
果嶺自然公園はどこにあり、いつ入園できるのか
高雄市鳥松区球場路270号にあり、園内には複数の入口がある。2026年8月5日時点の公式案内によると、4月から9月は5時〜18時30分(最終入園18時)、10月から3月は5時〜18時(最終入園17時30分)。毎週火曜日は休園で、火曜日が祝日の場合、休園日は後日に繰り下げられる。天候や工事、行事によって変更されることがあるため、出発前に公式サイトで最新情報を確認してから訪れたい。8
70ヘクタールとは、どれほどの広さなのか
新宿御苑の58.3ヘクタールよりも広い。市街地のそばで同じ規模の連続した土地を新しく確保することは難しく、その代えのきかない規模が、この公園の大きな特徴である。
旧ゴルフ場を公園として開放すれば、すぐに生態公園が完成するのか
すぐに完成するわけではない。土地にはもともと草地、樹木、池があったが、木陰を増やし、生息地の質を高め、人の利用との調整や安定した管理の仕組みを整えるには、長い時間がかかる。誰もが利用できるようになったのは開園の日だが、自然環境の質はその後の管理に左右される。
市は果嶺自然公園を植物園にする予定なのか
2026年8月5日時点で、少なくとも公園公式サイトと今回確認した高雄市の公開資料には、植物園への転換計画は掲載されていない。9 本稿で示した植物園構想は、既存の自然環境を守りながら、植物の収集、専門的な園芸管理、教育、研究を段階的に加えていこうという、筆者個人の提案である。
参考資料と注記
本文の開園日、面積、園路、管理規則、利用案内は、2026年8月5日に高雄市政府および果嶺自然公園の公式資料で再確認した。開園時間や休園日などは今後変更される可能性がある。
- 高雄市政府新聞局『高雄画刊』「A Golf Course Reborn as Shared Green Space」、2025年12月。1961年の開設、2000年以降の民間運営、2024年に市が用地を取り戻した経緯、2025年10月10日の自然公園開放、約70ヘクタールという面積、過去の高額な利用料金について。
- 日本・環境省「新宿御苑 概要」。新宿御苑の面積58.3ヘクタールについて。
- 高雄果嶺自然公園公式サイト「看見果嶺原型」。かつての18ホールをたどる約7.2キロメートルの園路と、公式に「植栽」2,658株として数えられている植物の名札・QRコードについて。
- 高雄市政府新聞局『高雄画刊』「果嶺自然公園で生態散歩――草原・湖・鳥による緑の饗宴」、2025年12月。開園初期の区域管理、人為的な干渉を抑える設計、生態ガイドと市民の関わりについて。
- 高雄果嶺自然公園「夜間閉園・照明・禁止事項に関する説明」および現行の「遊園須知」。夜間閉園、照明を設けない方針、樹木が密生する区域・水域への立入制限、禁止行為について。
- 高雄果嶺自然公園「園区維護日常」、2026年。区域、土壌の湿り具合、天候に応じた散水量・頻度の調整と、草地の継続的な刈り込みについて。
- バンデューセン植物園(VanDusen Botanical Garden)、シンガポール植物園(Singapore Botanic Gardens)、シドニー王立植物園(Royal Botanic Garden Sydney)。本文では各園の形式を模倣するのではなく、植物を集め、育て、知識を伝える活動を長く支える組織と専門性の参考として挙げた。
- 高雄果嶺自然公園公式トップページおよび「開園時間・入口・禁止事項」。季節別開園時間、最終入園時刻、火曜日の休園について。交通機関と入口は変更される可能性があるため、最新の公式案内を参照する。
- 2026年8月5日に確認した高雄果嶺自然公園公式サイト、高雄市政府新聞局『高雄画刊』の沿革記事および生態記事。これらの公開資料は自然公園、生態保全、環境教育について説明しているが、植物園への転換計画は掲載していない。
Japanese Version 1.0|HTML Version 1.0|Author photograph|Local release preparation 2026-08-05